【本の紹介】『生産性』伊賀泰代 ー「生産性」を考えるシリーズ #1


みなさん、こんにちは。

今回から「生産性」というキーワードで仕事や身の回りのことを考えていくシリーズをお届けしたいと思います。第一回目は、そのものズバリの本の紹介です。

『生産性』伊賀泰代 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

(amazonへ飛びます)

著者の伊賀泰代さんは、1993年から2010年まで、マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンで、人材育成・採用マネージャーを務めた方です。一般的なマッキンゼーのイメージというと、事業戦略やM&Aなど、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」のうち、モノやカネに関するアドバイザリーを行なっている、というものかと思うので、少し意外かもしれません。

では、さっそく目次を見てみましょう。

序  軽視される「生産性」
1章 生産性向上のための4つのアプローチ
2章 ビジネスイノベーションに不可欠な生産性の意識
3章 量から質の評価へ
4章 トップパフォーマーの潜在力を引き出す
5章 人材を諦めない組織へ
6章 管理職の使命はチームの生産性向上
7章 業務の生産性向上に直結する研修
8章 マッキンゼー流 資料の作り方
9章 マッキンゼー流 会議の進め方
終  マクロな視点から

日本では「生産性」の概念が本来の意味よりせまくなっている

まず、この本に書かれていることで、なるほどと思ったのは、日本では「生産性」という概念は、本来の意味よりはるかに狭い領域の中に閉じ込められている、ということです。

「生産性の向上を目指す」というフレーズを聞いた時、みなさんはどんな状況を思い浮かべますか?機械の部品を組み立てる工場で、組み立てる順番通りに部品と工具を合わせて並べておく、とか、別のラインに移動するときにどの道順でいけば最短距離になるか考える、とか。オフィスワーカーなら、文書の送り状や、よく使うメールは雛形を用意しておく、よく使う電話連絡先は一発で呼び出せるように登録しておくなど。

これらは作業のムダをいかに省くか、という視点で出てくる発想だと思いますし、間違ってはいません。

しかし、この本では生産性の上げ方は4つのアプローチがある、と書いています。それは、「イノベーション(革新)とインプルーブメント(改善)」および「付加価値アップとコスト削減」の組み合わせです。

 

 

そもそも「生産性」は「得られた成果」を「投入資源量」で割ったものとして定義できるので、「生産性を上げる」というのは2通りの方法が考えられます。分母を減らすか、分子を増やすかです。つまり、「分母を減らす=コスト削減」「分子を増やす=付加価値アップ」です。

さらにその手段として、今までの方法に少しずつ改良を加える「インプルーブメント(改善)」と、今までの方法を根底から変える「イノベーション(革新)」を掛け合わせたのがこの図、ということになります。

この図で考えると、上記の「作業のムダを省く」は「改善×コスト削減」に位置します。では、それ以外の箇所は一般的に「生産性」と関係のあるものと捉えられているでしょうか?少し例を見てみましょう。

「改善×コスト削減」例

  • a-1.Excelでマクロプログラムを組み、定型作業を自動化する
  • a-2.手書きの定型書類をHTML化し、Webを用いて送受信できるようにする

「イノベーション×コスト削減」例

  • b-1.製造現場での大型機械導入による組み立てプロセス自動化
  • b-2.設計見直しによる部品点数・工程削減
  • b-3.米国クレジットカード会社によるインドへのコールセンター移管

「改善×付加価値アップ」例

  • c-1.ベテラン技術者の技を新人に伝授することで付加価値の高い製品を作れるようになる
  • c-2.商品のパッケージデザインを変えて高級感を出し、値上げする
  • c-3.人気タレントを使ったプロモーションで今までとは違う顧客層に訴求する

「イノベーション×付加価値アップ」例

  • d-1.化学メーカーや素材メーカーによる新たな機能を持つ新素材の開発

コスト削減に関連するb-1やb-2の例はあまり疑問なく、なるほど、と思えそうです。しかし、b-3の例はどうでしょうか?
本の中で紹介されているb-3の例は、単なる人件費削減にとどまらず、「特別な語学学校を設立し、インド訛りのない英語を話すインド人を大量に育成し、彼らをコールセンターに雇い入れた」という経緯が付け加えられています。なかなか大胆な発想で、これがイノベーションだと言われるところかと思いますが、「生産性を向上させる」というキーワードからは導きにくいものではないかと思います。

続いて付加価値アップに関連するcやdの例を見てみると、さらに「生産性」というキーワードから遠いように思えます。しかし、上で書いたとおり、付加価値をアップさせることも、実は生産性の向上に結びつくことなのです。

本の中で指摘されていますが、日本では「生産性」という言葉が商品企画やマーケティングに影響力を持たない「工場」においてよく使われてきたため、「改善×コスト削減」のみが根付いている状態だということです。しかし、細かいことの積み重ねによる改善にも、コストの削減にも限度があります。それ以外の領域に目を向けていかないと、「生産性」を向上させるのが難しくなっていくのです。

この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL