【本の紹介】『生産性』伊賀泰代 ー「生産性」を考えるシリーズ #1


「分母を増やせば分子も増える」発想


生産性は「得られた成果」を「投入資源量」で割ったもの、というお話をしました。

通常、企業では成果を上げなければ、というプレッシャーがかかると、残業したり人を増やしたりして「分母を増やす」という手段が選ばれがちです。これは「生産性の比率は一定であるので、分母を増やせば分子も増える」という発想ですよね。大量生産・大量消費の時代には「作れば売れる」のが当たり前だったので、工場以外で生産性を考える動機がないまま「作る量を増やせば売れる量も増える」という簡単な法則に従ってきており、その発想が今も残っているのです。

しかし、時代は変わり、「作れば売れる」は過去のものとなりました。分母をやみくもに増やしても分子が増えるとは限りません。今のような状況では、生産性を向上させる、というフレーズは一般的なのにも関わらず、やっていることは向上と関係ない、ということになっています。ここで疑ってかかるべきは「生産性は変えられないのか?」ということです。

元の定義からすると、
分母を減らす(投入資源を減らす)施策をまず行う
すると、今まで投入していた資源(時間・お金・人手など)が余るはずなので、その資源を使って
分子を増やす(得られる成果を直接増やす)施策に集中する

という考え方が、「生産性の向上」には効果的だということになります。

効果測定と余剰の使いみち

ポイントは、分母を減らしたときに「これだけ減らせた!」という実感を持てるように、何をどれだけ減らせたか、きちんと前後で計測することです。そして、減らせた分は「分子を増やす活動に振り向ける」と最初から決めておくことです。

分母を減らす活動は、そのこと自体が生産活動における善行のように奨励されがちですが、本来はそれで生まれるはずの余剰を享受することが目的のはずです。

何をどれだけ減らせたか明らかにしないと、
・なんとなく余裕が生まれたような気がする
→ダラダラしても大丈夫な気がする
→みんなにその気分が伝染する
→ある日「もっとコストを下げないと」という号令が発せられる
→みんなでコスト削減に必死になる
(以下繰り返し)
ということになりかねません。

このループを防ぐためにも、効果測定と余剰の使いみちを決めておくことが大事です。

付加価値アップの具体的な方法

そして、分子を増やす方の具体的な方法として書かれているのが

①顧客がより高い価値を感じる商品開発やサービス設計を行い
②価格を上げて
③新価格に見合う高い価値があることを、顧客が納得できるように伝える

というものでした。①は商品開発やサービス設計、②はプライシング、③は顧客コミュニケーションの領域です。製品や商品そのものの価値を上げていくことも必要ですが、それを伝える部分にも目を向ける必要があるということです。

まとめ

「生産性の向上」の4つのアプローチは、目からウロコが落ちる考え方ではないでしょうか。イノベーションといえば、とにかく何か新しいことを思いつく、という漠然とした話で、ベンチャーや大企業にしか関係ないのではと思いがちですが、生産性と結びついたものだとされると、どんな企業も取り組むべきものと思えるのではないでしょうか。

この本では4章から7章で、組織としての生産性の上げ方、8章と9章で仕事上よくあるシチュエーションでの生産性の上げ方を取り上げています。いずれも納得性の高い書かれ方なので、気になる方はご一読をお勧めします。

では、また!

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