「働き方イノベーションForum2017」を聴講して感じたこと


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先月、働き方イノベーションForum2017 -組織とITで勝ち抜くワークスタイル改革「最適解」を探る1日(主催:日経BP総研 イノベーションICT研究所)が開催されました。
「働き方改革」への取り組みが求められる今、効果を上げている企業の事例や、組織を動かすための工夫を学ぶため、参加してきましたので報告いたします。

なぜ働き方を変える必要があるのか?

まずは今なぜ「働き方改革」が求められているのか、その背景を簡単におさらいしたいと思います。

①働き手 労働者人口の減少

  • 働き手の主力(生産年齢人口と呼ばれる15~64歳の人口)が減少している
  • さらに育児や介護でフルタイムで働ける人が減少している

②企 業 社会問題への対応

  • 長時間労働を黙認し続け、過労死等の問題が明るみに出ると社会的信用が失墜する
  • 転職者や新卒者もワークライフバランスを重視、対応が遅れると優秀な人材が集まらない

③政 府 一億総活躍社会の実現

  • 子育てや介護と仕事を両立できる環境の整備が求められている
  • 日本のホワイトカラーの生産性は世界各国に比べて低い(OECD加盟国中21位、主要先進7ヵ国では最下位)

④消費者 モノ消費からコト消費への変化

  • 物的な豊かさを得た現代では、作れば作るほど(時間をかければかけるほど)利益が出た高度経済成長時代のモデルは適合しない
  • 消費者にモノではなく価値を届けていくためには、創造性・イノベーションが必要

このような現状から、これまでの働き方を見直す動き(=働き方改革)が出てきていると考えます。

働き方改革の効果は?2社の事例より

聴講したセッションの内、2社の具体的事例(対象となった業務、その業務の内容、生じていた問題、改善した内容、得た効果)を紹介します。

東京地下鉄(東京メトロ)の事例

対象となった業務は?
・維持管理担当者が行っているトンネルの保守業務
業務の内容
・検査、撮影、記録の3名体制、作業時間は終電後の3時間のみ(検査は実質1.5時間)
・作業は前回の記録を紙で見ながら、デジカメで検査結果を撮影
・その後、本社に戻って検査結果を入力
生じていた問題
・作業時間が膨大、記録方法にも個人差がありバラつきが出る
・本社への情報共有に時間を要する(3ヵ月)
改善した内容
・検査記録フォーマットの共通化
・タブレット端末で検査内容の確認と記録を実施
・可視化ツールで蓄積されたビッグデータを分析
得られた効果
・日常保守業務の作業負荷が低減(5分の1)
・本社への情報共有速度が向上(3ヵ月→1日)
・情報の可視化により、これまで経験に頼っていた暗黙知を顕在化でき日常保守や大規模修繕に役立てた
・分析会議を実施し、社員のスキル向上や能動的な活動に繋がっている


オリックス・ビジネスセンター沖縄(OBCO)の事例

対象となった業務は?
・グループ企業のコールセンター業務
・営業書類の作成等のバックオフィス業務
業務の内容
・法人向け金融サービスの申し込み入力、契約条件変更時のお問い合わせ対応
・自動車メンテナンスリース時の注文書・売買契約書の作成 等
生じていた問題
・従業員に「働くお母さん」が多くテレワーク実現を図るが、業務の切り分けと仕事量、進捗を把握する手段が必要
改善した内容
・可視化(業務を漏れなく書き出す)
・計測(リアルタイムで業務を計測)
・分析(業務繁閑、スキルのミスマッチ、業務単位のコスト算出、KPI設定)
・改善(チームを超えた支援体制、数値に基づく改善提案)
得られた効果
・作業単位の標準時間が定義されているため、今日の処理予定数を入れれば、予定終了時刻と作業進捗状況が把握できる
・社員にも監視ではなく、公平な評価を行うためのツールとして認知された
・業務の繁閑時期が見える化され、チーム間で応援の文化が根付いた

この2つの事例から見て取れるのは、トンネルの維持管理担当者やバックオフィスの事務員など、企業を下支えるする業務を担う方々が、目的意識をもって改革を行ったことです。

経営から見ると、もっと売上向上や費用削減に直結する施策の方が実行したくなるかもしれません。
ですが、地下鉄のように日常的に使う移動手段が安全であり続けることは、お客様の日常的利用機会の維持に繋がりますし、バックオフィスの事務効率が上がれば、営業の業務スピードも上がり顧客満足度も上がるかもしれません。
そして結果的に、

  • さらなる利用の促進や契約の増加に繋がる(売上拡大)
  • それに伴い業務量が増加しても、業務が効率化されているため余計な費用は抑えられる(コスト削減)
  • よって利益も上がる(利益増加)
  • 社員のモチベーションが高まりさらなる改善が図られる(付加価値と生産性向上)

という好循環に繋がっていくのではと考えます。

働き方改革の進め方に最適解はあるのか?先行している企業の取り組みとは?

「改革は試行錯誤しながらの途中段階です。」

「泥臭く、苦労して作り上げてきた働き方改革です。」

「何かツールを入れれば劇的に業務が良くなるわけではなく、悩みながら進めている取り組みです。」

上記の事例の他にも、事例紹介された企業のご担当者からはこんな言葉がございました。とても実感がこもっており印象に残りました。

企業が抱える問題を、より本質的な解決を目指し試行錯誤しながら取り組んだ結果が、「働き方改革」事例に結果的に該当したのではないかと思います。
つまり、最初に「働き方改革」があったわけではなく、社員の健康を守りたい、ムダをなくして時間を有効活用してほしい、みんなが活躍できる環境を作りたい、それが長期的に見て企業の強みになると考え実行した企業が、いまのムーブメントを牽引しているのかもしれません。

取り組みの進め方

これはリクルートマネジメントソリューションズさんのお話がわかりやすかったです。

様々な価値観を持つ社員を画一的な仕組みで統一するのは困難

トップダウンとボトムアップの両面から進める必要がある(何をするのかは現場の知恵、実行は経営の意思)

目的は明確に(例えば、顧客・ステークホルダーに向けて新たな価値を創造する、等を目的に置くのはきれいだが、漠然としてちょっと遠いイメージ)

「社会体験の充実」(社会体験=育児、家事、介護、地域活動、自己学習など)を目的にし、一人一人の成長を促した

一律の方法で全員に効果があるわけではないことを認識したうえで実行したこと、そして目的をわかりやすくした工夫は参考になります。

IT活用と定着化方法

目的実現の手段として、IT・テクノロジーの活用を図る事例が多いのですが、仕組みありきで一度に全体最適を図るのではなく、運用定着化を目指し小さな成果を積み重ねていく丁寧な取り組みが求められるようです。
つまりトップダウンで全部門、全従業員に適用するよりも、特定のチームや部門に限定して小さく始め(スモールスタート)、その効果を確認しながら改善を図り展開していく(スケールアップ)手法が有効のようです。
やってみて考えながら改善していく、そんなイメージでしょうか。

取り組み企業・先進的な企業は「人」に目が向いている

作業が劇的に楽になった、もう紙とデジカメで検査した頃には戻れない、そんな成功体験が社員の向上心をさらに高めた(東京メトロ)

限られた時間内で生産性を上げ、従業員が活き活きと働ける環境整備をどのように行っていくかが重要(マイクロソフト)

業務に費やしている時間を、より高度、やりがいのある業務、家庭を顧みる時間、自己学習の時間に充てることで従業員の生活の質を上げる(OBCO)

1を100にできるのはAIかもしれないが、ゼロを1にするのは人間(インテル)

登壇された方々がお話になっていたことの一部です。
表現はいろいろですが、働き手に目が向いている点が一致しているのではないかと思います。

本フォーラムで感じたこと

「働き方改革」への企業の対応には、画一的な最適解があるわけではなく、試行錯誤を繰り返しながら各企業が最適解を模索している、ということがわかりました。
正解は無い中でも、企業を支えるのは人であり、その人に目を向けて改善に取り組む企業と、日々の煩雑な業務を従来の労働力で賄い続ける企業との差は、今後ますます開いていくのだろうと思います。

私自身は就職氷河期に社会人になり、人余りの時代を経てきた中で、今になって「働き手の大切さ」という当たり前のことが再認識されていることは嬉しく思います。

補足:「ワーケーション」という新しい働き方もある

このフォーラムでは和歌山県庁の取り組み事例も紹介されていました。
公務員である方の働き方改革への積極的な取り組みの姿は、民間企業の促進にも影響を与えるのではないかと思いますので、どんどんやってほしいですね。

また和歌山県の白浜町はワーケーション(ワーク+バケーションの造語、休暇を取ってリゾート地などで過ごしながら仕事もするリモートワークの一種)に適した地域であることも紹介されていました。
白浜町ITビジネスオフィス
和歌山県白浜町、名前は聞いたことがありましたらご縁がない土地でしたらので、機会があれば一度訪れてみたいなと思います。

 
私が聴講したセッションはどれも満席で、熱気のある大変充実した1日でした。
「働き方改革」が一時のムーブメントに終わらないよう、取り組みを目指す企業の支援を微力ながら行っていきたいと思います。
 

今回は以上となります。お読みくださりありがとうございました。

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